将来、建設業許可を円滑に取得するために

建設業という業界の特殊性として、大手ゼネコンから下請、孫請、ひ孫請・・・と重層的なピラミッド構造となって工事が行われていきます。下層の方では、これまで求められていなかった建設業許可も、今後は許可を持っていないと工事に入れないという風潮があります。建設業界がいかに成熟しようとも、消費者保護の声は大きく、この大きな流れに抗うことは難しいでしょう。

また、公共工事にしても民間工事にしても、好不況に大きな波があり、今日の発注者が明日は下請となることもあり、業界全体で業界を支えているところがあります。つまり、今後の建設業界全体の発展を考えれば、自社だけでなく、建設業界を見渡し、できるだけ建設業許可を取りやすい環境づくりをしていかなくてはいけません。

建設業の許可を取るときに、ハードルとなるのは、なんといっても経験を証明する資料を提示しなければならない点です。

  1. 経営業務の管理責任者には5年以上(経験内容によっては7年以上)の経験が求められます。
  2. 専任技術者となる者に国家資格があればいいのですが、ない場合は実務経験10年以上(もしくは学卒経験+実務経験)が求められます。

残念ながら、これらのハードルを越えるウルトラCのような裏技はありません。 しかし、建設業の許可を取りやすくするために将来的な準備をしておくことはできます。

許可申請のご依頼を受けても、経験を証明する資料がないということが非常に多くあります。

日頃の業務を通じて、こうしておけば良かったのに・・・と思う点を挙げてみました。

少しでも参考にしていただければ幸いです。

なお、実務経験の証明については各都道府県での取扱いが異なることが多々あります。例えば、他県では、経管や専技の実務経験の証明は建設業許可を持っている業者でないといけない、ということがあります。また、将来的に取扱いが変わってしまうこともありますので、その点はご了承ください。

経営業務の管理責任者

まず、経営業務の管理主任者についてです。

  • 法人化して、取締役を増やしておきます。
    取締役は経営業務の管理主任者になれる経験となるからです。
  • 合同会社の場合は、経営業の管理責任者としての経験であるために業務執行社員にしなければなりませんが、合同会社の社員は出資をしなければならないので、業務執行社員となる者にとっても負担になるケースがでてきます。ですので、取締役になるのに新たに出資する必要のない株式会社をお勧めします。

  • 取締役には入れたくないという場合でも、支店を設け、支店長(「令3条の使用人」と呼ばれます)をおくことができます。支店長の経験も経営業務の管理責任者としての経験とみなされます。
  • ただし、支店を設ける場合の注意点としては、次のよう点があります。

    • 支店に常勤の専任技術者を置く必要がある。
    • 営業所が複数の都道府県にまたがる場合は、知事許可から大臣許可になる。

また、個人事業であれば、個人事業主は代表者なので、まだ経営業務の管理責任者の証明をしやすいのですが、補佐経験については同時期に1名のみですし、証明に必要な期間は7年以上になります。

  • 現在、個人事業で建設工事に携わっているのであれば、ちゃんと確定申告をしておく。
    個人事業の確定申告書の職業欄には「建設工事業」や「とび工事業」「管工事業」など工事業とわかるように記載しておく。
    給与収入ではなく、事業収入で計上しておく。
  • 個人事業で建設工事業をしていて、お子様へ引き継ぎを考えているのであれば、事業専従者に子供を入れておく。
  • 補佐経験であれば、7年の経験が必要ですが、次代のお子様を個人事業主とし、現在の経営業務の管理責任者を支配人になられるのであれば、そこから5年の経験で経営業務の管理責任者となれます。
    ※ 支配人には、経営管理業務の管理責任者の要件が必要です。

専任技術者

  1. 建設業許可の種類に応じた国家資格を取得する。
  2. 会社(事業主)として、技術者が国家資格を取得するよう積極的に支援する。
    • 給与体系に組み込み、報奨制度を定め、社内に周知させるとともに、合格者を表彰する等すると、モチベーションもアップしますし、会社全体としての工事技術の向上が望めるとともに、社外に対してのアピールにもつながります。
    • 専任技術者になれる国家資格の保有者が増えれば、会社として支店を増やすこともしやすくなります。
    • 個人事業主やその家族、会社役員であれば、専任技術者としての経験期間に関する工事関係資料や確定申告書等の保管やコピーの取得もやりやすいかと思いますが、一従業員であった場合はなかなか保管しておくことは難しいでしょう。
      建設業の許可に限った話ではなくなりますが、円満退社を心がけて頂き、退社後もつながりをもっておきましょう。

  3. もし、勤務先が建設業の許可業者であった場合は、勤務期間の許可通知書と、許可申請書や変更届の副本のコピー(受付印のある表紙と様式第9号(当時の専任技術者の証明))を取らせておいてもらい保管しておきましょう。こういった会社へのお願いも円満退社でないとできません。
  4. 勤務していた期間中、住民税を給与から天引き(特別徴収)されていれば、「住民税特別徴収税額決定通知書」は保管しておきましょう。

現在の職場で10年以上技術者としての経験があれば、工事に関する資料はまだ集めやすいと思いますが、過去の職場にお願いして、工事に関する資料等を出して頂くのは、困難なことが多いです。自らの技術に関することを対外的に証明するものにもなりますので、国家資格への挑戦をお勧めします。

工事関係資料や確定申告書、建設業許可申請書や各種変更届の副本

  1. 証明する資料となる工事関係資料(工事契約書、請書、注文書、請求書+入金のあった通帳等)や確定申告書の控えは、できる限り(できればずっと)保存しておきます。
  2. 建設業許可をとっていた業者様については、建設業許可申請書や各種変更届、決算変更届なども保管しておいてください。
  • 会社一般には、税法上帳簿類については7年間の保管義務がありますが、建設業の許可において、実務経験の証明資料として必要とされることがありますので、できる限り長期間保管しておきましょう。
  • 近年は電子化することも容易となりました。紙資料で保存しておくとどんどんたまり、保管場所にも困りますが、電子化するとそういった悩みからも解放されるので、活用したいところです。

過去に従業員として勤務していた方が、建設業許可を取得するというケースでは、個人事業で建設業を5年経て、経営業務の管理責任者の要件を充たし、国家資格を有していない場合は、実務経験10年のうち5年分の経験が不足します。(この場合でも、専任技術者を雇い入れるという方法はあります。)

過去の経験に関する工事関係の資料や確定申告書の控えを、過去に退職した勤務先にお願いして集めてもらい、お預かりするということになりますが、このようなご協力をお願いすることは、円満な退職をしてないととてもできるものではありません。建設業だけに限った話ではありませんが、人間関係やお付き合いは大切にしておきましょう。

また、自社から独立していった若者達が、将来、建設業許可を円滑に取得することができるよう資料を作成し、長期間保管しておいてあげてください。

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